マイクロトレンド 〜世の中を動かす1%の人々


『マイクロトレンド 〜世の中を動かす1%の人々』
マーク J.ペン with E.キニー・ザレスン著
三浦展 監修  吉田晋治 訳

 クリントン政権のブレーンによる初の著書という触れ込みで、世の中の「マイクロトレンド」のもつ知られざる力を説いたユニークな本。例えば「10歳年下と付き合う女性(クーガー)」とか「子どものベジタリアン」とか「ネット婚カップル」とか「高齢になって初めて子どもをもつ男」とか……。どこか身の周りにいそうだけれど、絶対数としては多くない。そんな人口の1%程度の人々の動向が、小さなグループに収まらない、大きな影響力を社会や経済に及ぼす、というものだ。
 たとえばクーガー。「年上女房」は珍しくはないけれど、クーガーが提示するものは「女性が年齢も生活レベルも年収も上」というカップルが「あたりまえ」の選択肢になるということだ(下流好きの女性、という「SPA!」の特集とはちょっと違う)。誰もがクーガーになるわけではなくても、誰もがそういう選択肢は持てる、ということの意識変革のインパクトは大きい。加えてクーガーには物理的裏付けもある。医学的常識では、男性の性欲のピークが20代だとすると(少し悲しい事実だけれど)、女性の性欲のピークは30〜40代で出産年齢を超えて続く。つまり同世代のカップルはこのピークの時期が完全にずれているわけで、ましてや「おやじと若い愛人」などは特例なわけだ(ある意味で羨ましくはあるけれど)。長い関係を心身共に築こうとする場合、このクーガーのカップルは案外ベストなのかもしれず、こうした肌感覚の事実にドライブされて社会意識が劇的に変わっていくかもしれない。
 たとえば子どものベジタリアン。日本ではベジタリアン自体がまだ珍しいけれども、アメリカで子どものベジタリアンが増えていることは、珍しい以上の意味がある。もちろんベジタリアンの子どもは大きくなって子どもをもつと、その子どももベジタリアンにしようとするだろうから、一義的には畜産や肉食品の売上げは先細りとなる(小麦価格はもっと高騰する)。だがもう少し大きな視点で見れば、子どもまでもがベジタリアンになると、社会全体で、食の健康について誰もが考えざるを得なくなる。悪名高い肥満国家アメリカで、食に対する意識が劇的に変わっていくかもしれない(たとえベジタリアンになる人は少数でも、というところがミソ)。
 こうしたマイクロトレンドを見ていくことはそれだけで面白いのだけど、実はこれらのマイクロトレンドはより大きなトレンドを掴むための絶好のヒントなのだ。クーガーが現れた理由は女性が経済的に自立し、社会的に成功を収め、それに伴って美容を追求するようになったためだし、子どものベジタリアンが増えた理由は、食に対する選択肢が増えたことの他に、子どもの欲求に対して親が以前よりも寛容になったという大きな流れがある。そして著者のマーク・ペンは、こうした大きな流れを統計的に読み取り、そこからマイクロトレンドを見つけていくプロなのだ。
 マーク・ペンはPR会社のCEOにして世論調査員(英語ではポールスターという格好いい響きの肩書きになる)。有名なのはクリントンの2期目の大統領選挙においてその選挙参謀になり、「サッカーママ」というそれまで政治においてはネグられていた層をあぶりだし、彼女たちに向けたキャンペーンを展開することで見事クリントンを再選させたことで、これはワシントンでは語りぐさになっている。TVドラマ『ザ・ホワイトハウス』で登場する世論調査員ジョーイ・ルーカスがまさにその役どころといったところ。演じるマーリー・マトリンの美貌も相まって隠れファンも多いとか。
 日本語版の監修をした三浦展さんも書かれているが、本書が他のいわゆる「トレンド本」と違うのは、世論調査員たるマーク・ペンが、事象の背後にあるより大きな人々の生活の変化(出生率や離婚率、生活意識の変化など)を数字から読み取り、そこから「大きな力」をもつマイクロトレンドを見つけ出していくことだ。この人間の基本部分の変化を無視して、ただたんに「商品が売れた、売れない」だけを数字で見ていても、それが「なぜなのか」は分からない。いっぽうでただ単にニッチな流行を追求しても、それだけでは「大きな力」を持つものとは限らない。「ニッチなトレンド+大きな影響力=マイクロトレンド」なわけで、そこには数字と洞察が必要なのだ。
 著者のマーク・ペンは今回のアメリカ大統領予備選でヒラリー・クリントンの選挙参謀だったわけだが、残念ながら年初からのヒラリー不調の責任をとらされる形で発売2週間前の4月に辞任となった。ニュースでは「クリントン氏が反対する米国とコロンビアの自由貿易協定(FTA)締結に向け、ペン氏がコロンビアの駐米大使と会っていたため」というが、ペンはもともとPR会社のCEOとして中米の多くの国のトップとも仕事をしているわけで、これは詭弁だろう。

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