We shall overcome someday

キャスのお姉さんアンジーが日本に遊びに来ていて、共通の友人ジュリアと4人で六本木のYAKITORI 燃に 行く。店名にもなっているシャンパンのモエがお通しにグラスで出てくる贔屓の店だ。焼き鳥は初めてというアンジーの前に珍しい部位の串を並べ、お約束の 「各国食事文化」話に花を咲かせていると、いつの間にか鯨の話になってしまった。外国人との楽しい会食の席ではぜひとも避けたい話題のひとつだ。

  英語版の「Newsweek」と「Time」を読み始めてから、日本の捕鯨について度々糾弾する記事を目にしてきた。国内のメディアにしか触れない平均的 な日本人には、知識ではしっていても、きっとそんなに頻繁に世界から名指しで日本が糾弾されていることを知らないのではないかと思う。その内外のメディア のギャップには常々違和感を感じてきた。しかしいっぽうで、外国人を前にすると途端ににわか愛国者にならざるを得なくなり、自国文化の擁護に回らなければ いけなくなるというシチュエーションもまた普遍的なものだと思う。アンジーが「でももっとちゃんと教育(educated)されれば、日本人も捕鯨をやめ ると思う」と言われた時には、僕も声を荒げざるを得ないのだ。

 その時の論点は「絶滅危惧種だから」と「知的哺乳類だから」だったと思 う。「絶滅危惧種かどうかは科学的な問題で、そうだと分かれば日本人は喜んで捕鯨をストップするだろう」「でも知的云々は、文化の違いとしか言えない。洗 練されているかどうかとか、文明的かどうかという問題ではない」とその時は言ったが、実は僕も捕鯨のことはよく分からない。Wikiで調べてみると、予想以上に論点は多様でしかも錯綜していることを知ってすこしクラクラする。やれやれ、こんなの英語で言えないよ。お腹がめちゃくちゃ空いていることを「馬ですら食べられる」と表現するイギリスのお国柄からすると、日本の食文化はかなり形勢不利とも言える。

  でもやっぱり外国人と話しているとたまにポロリとこうした人種差別意識に深いところで根ざした言葉を耳にして元気をなくすことがある。キャスやジュリアや ダニエルみたいにいろいろな国を渡り歩いている人はそんなこともないけれども、アジア初体験みたいな人が悪気もなく素直に口にするとき、その無垢さが余計 に根深さを物語っている。日本社会の中だけで生きていけば、きっと一生こういう嫌な思いなんてせずに生きていけるだろうに、と思うこともしばしばある(海 外に暮らす人から見ればナイーブすぎるだろうけれど)。

 でも、その考えもまた甘すぎるのだ。例えば韓国で犬肉を食べた時、僕はたしか に、韓国は日本よりも「野蛮」だと思ったのではないだろうか。「中国人は四つ足なら何でも食べる。机以外は」と言うとき、その食文化の豊かさへの憧憬と共 に、かすかな優越感を感じてはいないだろうか。

 きっとそんな考えが無意識に沈殿していたのか、今日DVDで『パッチギ!』を観た。これだけ最高の映画をなぜ僕はいままで観なかったのだろう、と見終わってから思った(エリカ様が かつてはこんなに純朴できれいだったことも知らなかった)。それだけ素晴らしかった。でも映画や本は出会うべくして出会うもの。きっと今このときに見たか らこそ、これだけ心を動かされたのかもしれない。映画の中で、「日本人はわれわれ在日朝鮮人のことを何も知らない。お前みたいな若いやつが知らなければ、 これからもずっと日本人は知らないということだ」と言われ、主人公が在日朝鮮人の友人の葬式から追い出されるシーンがある。「知らないことは罪だ」、と村 上龍さんも言っていた。高校のときに金さんという同級生の女の子がいた。彼女が卒業式にチマチョゴリを着てきて、僕は初めて「あ、金さんって在日朝鮮人 だったんだ」と思った。それほどに「ザイニチ」というものを意識していなかったのだ。知らなかったと言っていい。東京都下という土地柄もあっただろうし、 学校や両親の教育方針とかもあるのかもしれない。もちろんその後僕は、どちらかと言えば知識として、いろいろなことを知ることになったし、またこの映画が 「在日朝鮮人の被害者意識を誇張している」という批判も双方からあるらしく、一つをとって全てを知ったと思ってはいけない。でも何も知らなかった当時の無 垢な僕は、相手の文化について無邪気な優越感を見せてはいなかっただろうか? あるいは今、「日本にいれば……」と思った段階で、やはり何かを無知なまま で放置していないだろうか。逃げ場など、どこにもない。果敢に交ざり合うことだけが、状況を少し前に進めてくれるのだと思う。この映画を観て、泣いて、僕 は少し元気をもらった。

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