シンクロニシティ

 夜の2時ごろ帰って久しぶりに何気なくテレビを点けていたら、いつしか『世界の中心で、愛をさけぶ』のドラマの再放送が始まった。観たことがなくて最初は分からなかったけれど、オープニングテロップが出て「最終回」とあったのでそのまま観ることに。今まで恥ずかしいからあまり人に言ったこともなかったけれど、僕は『世界の中心で、愛をさけぶ』を読んでいる。はい。しかも、初版本で。ブームになる2年ぐらい前じゃないだろうか。まったく無名だったときのジャケ買いで、ちょうど「喪失気分」にやられている時だったのだと思う。
 『世界の中心で、愛をさけぶ』は高校生のみずみずしいほどの恋愛や、その彼女の死が印象的だけど、それらはすべて、現在進行形の30歳(だったかな、緒方直人がやっていた)の主人公の心情描写のためだけにある。どうしようもなく喪失して、しかも人生でもう二度と出会うことがないと分かってしまったものに対して、その事実と折り合いをつけるのにその後の人生を費やしてしまうような、そういう生き方が実は僕は嫌いではない。というか、たぶん親近感があるのかもしれない。その「分かってしまったもの」として、高校時代の恋人、しかも病気で死んでしまう彼女を提示する手法には、恐ろしいほどに本質的で、そして凡庸なまでのずるさがあると思う。
 この前ニューヨークに行った時に、そこに住む高校時代の彼女とけっきょく会えなかったことを思い出す。去年、やはりニューヨークに行ったときに、10年ぶりに会った彼女。今回は彼女が忙しかったのかもしれないし、会う気にならなかったのかもしれない。それはどちらでもよいことだ。
 翌日に会社でばったりあった馴染みのデザイナーさんと馬鹿話をしていたら、ふいに携帯が鳴った。知らない番号に余所行きの声で出ると、それはその彼女だった。出張で東京に来ていて、今、成田で飛行機に乗るところだと言う。なんという偶然だろう、だからシンクロニシティは侮れない。僕が夜にテレビを点けるのは2週間に1度ぐらいだから14分の1、それで特定のチャンネルを選ぶ確率は(地上波しか観られないから)7分の1=98分の1、その時に『世界の中心で、愛をさけぶ』最終回の再放送がやっている確率は、えーと、何分の1なんだろう。そしてその翌日に彼女が電話をかけてくる確率は、たぶん明日東京に雪が降る確率ぐらいには少ないんじゃないだろうか。
 僕は素直に、昨晩ちょうどたまたま、『世界の中心で、愛をさけぶ』の最終回を深夜の再放送で観たことの偶然性を話す。少し興奮している。「名前が私と一緒なんだよね、しかも死んじゃうし」と彼女は答える。昔、僕がこの本を読んで、しかもまだブームにはなっていなかったころ(2001年だと思う)、「世界の中心で愛をさけんだけもの」というタイトルのメールを彼女に送ったことがある。ハーラン・エリスンのSF小説のタイトル。僕はエヴァンゲリオンで知ったのだけど。僕はこのタイトルのほうが100倍好きなのだ。その後、『世界の中心で、愛をさけぶ』がメジャーになって、ニューヨークにいた彼女はそれで初めてその存在を知って、タイトルの符合にびっくりしたという話をして以来、僕らの今では数少ない接点となっている。
 電話口からアナウンスの声が聞こえて、最終搭乗のコールだと彼女が言う。きっとこの前のニューヨークで会えなかったことを、ずっと律儀に気にしていたんだろうなと思う。成田で搭乗の直前に電話をしてくる彼女は、昔からちっとも変わっていない。大切な、守るべきものをちゃんと分かっていて、ずっと大切にし続けられる強さが彼女にはあるのだと思う。僕が今すぐに会社を抜け出して会いに行こうと思ったって、成田に着く頃にはもう日本にはいないわけだ。やれやれ。
 いくら「書くことがない」からと言って、本当にオンライン世界の塵のように行き場もなく漂うだけの「日記」を書いてしまった。そんな夜中の2時に、爆笑問題の太田さんからヴォネガットの本への推薦文がメールで届く。締め切りを越えても、「もう少し推敲の時間を下さい」と粘りに粘ってやっと送られてきた、その太田さんの「想い」が文面から伝わってきて心が震える。こうした魂から湧き出す想いだけは、これからも持ち続けていたいと思う。
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