Route 66 Barstow > Kingman : 3rd day

 6時すぎに起きてモーテルの向かいのレストランでアメリカンな朝食。店員のおばちゃんにも「今日はTerrific dayね!」と言われて気分良く出発する。395号からすぐに136号を左に折れる。と、そこで事件は起こった。荒涼とした一本道を快調に飛ばしていると、ふいにハンドルがガタつき、そのまま右にとられる。パンクだ。急いで路肩に車を停め、降りて見てみると右前輪のタイヤが破裂している。また頭が真っ白になる。やれやれ、今日は確かに素晴らしい一日になりそうな予感がしていたのに、出だしからこれか……。
 まわりを見回す。遠くの丘陵に囲まれたここは、見渡す限り荒涼とした岩と転々とする草しか生えていない。デス・バレーの入り口なのだ。とりあえず、トランクを開けてスペアタイヤの存在を確かめる。昨日の「鍵閉じこめ」が二十歳以来2度目だとすれば、パンクは生まれて初めてだ。しかもデスバレー……。ハエだかアブだかが集団になって体にまとわりついてとても静止していられない。走り回ってもまったく体の周囲から離れず、本気で20,30匹はいそうだ。車の周りを2,3周ダッシュして少しだけ引き離し、そのままドアを開けて車内に逃げ込む。さて。スペアタイヤへの付け替えを、こんな虫がブンブンワンワンいうところで出来るわけがない。まだ今日の宿からは30分ぐらいしか走っていないはずだ。何とかそこまでこのタイヤで戻れないだろうか。そう思ってUターンをして車を走らせるけど、ものの10メートルで断念する。ガタつきすぎて走れないし、車体も壊しそうだ。諦めて車を停め、パーカーを着てフードをかぶり、意を決して再び車外へ。車のフロントに、トンボが頭から突っ込んで潰れ、尾だけヒクヒクさせている。確かにここはデスバレーなのだ。暑さと虫の攻撃の中で、説明書を読みながらなんとかスペアタイヤに付け替えること所用20分。煙草を一服。さて。
 スペアタイヤのまま100マイル以上あるデス・バレーをそのまま横断するのは自殺行為に思えた。もしもうひとつタイヤがパンクしたら僕はデス・バレーの真ん中でアウトになるのだ。というより、スペアタイヤのままでは旅行を続けること自体が無理だ。AVISでもらったカリフォルニア州の地図を広げ、一番近い営業所を探すと、Barstowという街にあるらしい。やはりここからは120マイル以上ある。それでも、デスバレーに入るぐらいなら、395号を走っているほうが、まだ安全な気がした。デスバレーを横断してラスベガスへ抜けるという今日の予定は全て変更して、395号まで戻り、そのまままた南へ、南へとひたすら走る。
 この395号は、本当に圧倒される景観の連続だと思う。近くには多数の国立公園が点在するが、国立公園というなら、この景色の全てが公園と言えるだろうし、デスバレーと言ったって、395号から見える荒涼とした何もない大地の広がりは、その全てがデスバレーと言っても過言ではなかった。実際、気をつけて見てみると、インターステートの路肩にはたくさんの破裂したタイヤやその残骸が散乱していた。ほぼ1マイルにひとつはある。もしまたタイヤがパンクしたら……、不安が払拭できない。道路には小動物の轢死体も1マイルごとぐらいにはある。それをカラスがうまく車をよけながらついばんでいる。自然の清掃係なのだ。途中、ゴーストタウンのような町をいくつか越えるだけで、ほぼ何もない自然の中をBarstowまで2時間以上かかってたどり着く。
 BarstowのAVISはメインロード沿いにあってすぐに見つかり、タイヤを替えるか車を替えてくれと頼むと車を替えてくれた。せっかく少し馴染んだ最新型Fordとの別れは寂しかったが、新たな白のシボレーで旅を続ける。昼食をとろうとそのメインロードをダラダラと走っていると、そこにある看板が目に入る。「Historic Route 66」そうなのだ。Barstowはこのルート66号沿いの街だったことを思い出す。ラスベガス>グランドキャニオンというルートを変更し、このままルート66を東に向かうことにする。
 バーストウからすぐにルート66を見失い、いったんインターステート40号に乗るとまたすぐルート66への出口が出てくる。そこから進むとほどなくストロベリースプリングの町だ、といっても、カフェが2軒と潰れたガソリンスタンドが一つあるに過ぎない。そこから少し進むと、映画『バグダッドカフェ』で使われたカフェが荒野の一本道にポツンと建っている。まさに砂漠の中のオアシス。おばちゃんが優しく話しかけてくれ、ゲスト・ブックに記帳し、写真も撮り、佇んでいると「コーリング・ユー」が流れてくる。客の誰かがジュークボックスでかけたのだ。砂漠の中で、しかもバグダッドカフェで聴くその曲に心から感動する。しばし、別世界をさまよう。
 そこから先は、150マイルもつづくMojave砂漠が続く、遠く丘陵をみやりながら、何もない道をひたすら進む。ヒストリック・ロードというだけあって道の状態が悪く、車ががたつくのが、朝にパンクを経験した僕には精神的にきつい。時折道に刻印されたルート66の文字だけがこの先の見えない道程を奮い立たせる。ぎらつく太陽が頭上を追いかけてくる。気温は華氏118度まで上がっている。こんな砂漠を、西海岸を目指して人々は進んでいったのだろうか。今の僕にはとても信じられない。西へ、と進んでいったその“マザーロード”を、僕は東へと向かっている。生まれた場所へとまた戻る道。母の胎内へと進んでいくルート66。ニードルズまでの間に3つある町はどれも廃墟だ。このMojave砂漠はルート66のなかでも一番過酷な部分なのかもしれない。
 ニードルズでガスを入れ、カフェで一休みする。もう17時だと思っていたら時差でまだ16時。宿探しをしようかと思っていたけれど、思い直して、もう少し先までルート66を辿ることにする。目的地をキングマンに定め、先に電話でモーテルを予約しておく。いったん40号にのり、ついにコロラド川を渡ると、そこはアリゾナ州だ。やっとこの旅行で二つめの州にたどり着いた。今さらながら、アメリカは大きい。大きすぎる。
 デッドエンドのルート66にあたってまた戻りながら、オートマン経由でキングマンを目指す。そこはとても美しい山岳ルートで、まるでグランドキャニオンを走っているようだ。ほぼ車は通らない。一人でその険しいMojave valleyを見ながら進むこの道は、今までで一番美しい景色だった。何度も「すげー」「なんだよ、これ」と一人で感動の声をあげながら進んでいく。オートマンも非常に趣のある寂れた町で、もし宿を予約していなかったら、僕はここでエンジンを切っていたかもしれない。ビリヤード場もあったし。急峻な山を登り切ると、眼下に緑の平野が一面に広がっている。目指すキングマンまでの道のりをひたすら走る。雲が一面にたれ込め、向こうでは嵐になっているのが見える。僕はこの美しい風景を一生忘れないと思う。
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