著者エージェントという仕事

 東京国際ブックフェアの専門セミナーを聴きに東京ビッグサイトへ。「ベストセラーの作り方!」と題された、アップルシード・エージェンシー代表取締役の鬼塚忠氏の講演で、別に要領よく「ベストセラーの作り方」を知りたかった訳ではなく、この前ニューヨーク出張に行って以来気になっていた「著者エージェント」という業種の日本における希有な成功例を聞いてみたかったから。創業5年で5万部超の本を20冊、うち10万部超が8冊という実績。アメリカの出版界では確固たる地位を築いている著者エージェントという仕事は果たして日本でも可能なのか? という凡百の問いにこの数字は一定の答えを出していると言えるかもしれない。
 話を聞いて分かったこと。年間に手がける本は50〜60冊。そのうち半分は新人著者を発掘する。ビジネス書が強く、また、年間1冊は映画化を狙っていくという。印税はケースバイケースだが3%前後らしい。まず何よりも、書き手の発掘が大切で、鬼塚氏自身「無名で力のある作家と巡り会った時」が一番燃えると言うとおり、新人発掘は積極的だ。日に2本の割合で新しい企画もどんどん舞い込んできてそれを精査していくのだが、文芸で1割、ビジネス書で2割の原稿が通過し、3か月以内にその6割が、1年以内にその7割が出版社が決まるという。
 仕事としては編集者ではないので文章に細かく手を入れることはないが、出版社に売り込んだあとは協同してコンセプト作りとプロモーションを考えるという。特にエージェント業ということで、「この本の成功」というよりも、作家自身の今後5年、10年の成功を目指して常に活動する(それは出版社も同じだけど)。作家との一対一の付き合いというものが、大変で手間がかかるが非常に面白いところで、ここに躓くかどうかが、エージェント業の成否を決めるようだ、とも言う。
 そのプロモーション手法は示唆的だ。ベストセラーに持って行くためには、まずタイトル・帯のキャッチ・目次については徹底的に考え抜くという。ある本では著者や出版社社長も混ぜて6時間討議した末に決めたという。出てきたアイデアは300以上。これはすごい。その次に、この本がいかに特別な本であるかを、その出版社の社長から末端の営業部員に至るまで全員に知ってもらう。そのために、その本についてのコミュニケーションを最大化させるのだ。実際に発売となれば、営業部員全員を集めてもらい、全国の書店への売り込みのシミュレーションを行い、目標を設定して売り込みをかけていく。例えば類似書の売れ行き良好店25店舗で100冊ワゴンセールをしてもらうとか。こうして驚異の再版率を誇る実績が生まれていく。
 当然ながら(というか残念ながら)こうしたきめ細かい販売戦略は大手出版社では無理で、ベストセラーは中小から生まれているという。大手出版社のベルトコンベア式出版に如何に抵抗して本をつくるか、がミソなんだという。やれやれ、耳が痛い。「売れる」ことではなく「売れ続ける」ことのほうが何倍も大事で何倍も難しい。少しヒントがもらえた気がした。
 1時間の講演が終わるとお待ちかねの洋書バーゲンコーナーへ。今年はかなりの収穫があった。まずは今注目の写真家Wolfgang Tillmansの『truth study center』を2000円でゲット。33%OFFぐらいか。それからジャケ買いならぬ中身買いしたPaul Strandの『Southwest』1600円。普段は7000円強の売値なので破格の掘り出し物だった。ポール・ストランドは現代写真の巨匠のひとり。1920年代のニューメキシコ州の美しい写真集で、来週からのバカンスに旅情をいっそうかき立てられる嬉しい一冊。
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