『死をデザインする』

 ティモシー・リアリーの『死をデザインする』を読了。60年代に心理学者として招かれたハーバード大学をLSD投与による意識実験のかどで追放されたリアリーは、幻覚性物質を伴う意識の拡張と既成の体制・権威の拒否を唱えて一躍「サイケデリック革命の父」となり、ヒッピー、ビートルズ、ニューエイジ、サイバーパンクにとどまらず、60年代以後のカウンターカルチャー全般に多大かつ決定的な影響を与えた時代の寵児だ。
 本書は96年にそのリアリーが前立腺癌の宣告を受けて死に直面した際、それを「意識の拡張」と「体制の否定」の最後のパフォーマンスに仕立て上げようとした(死をデザインしようとした)、その記録である。「死」は常に「終わり」とされ、ネガティヴなニュアンスを含み、病院に「監禁」され、宗教によって管理されている。リアリーはそこから「死」を軽やかに救い出そうとした。
 彼の有名な言葉に「Turn on, Tune in, Drop out!」がある。LSDやサイケデリック物質で意識を拡張し(turn on)、より高次の意識に波長を合わせ(tune in)、自由な意識となって既成の社会からドロップアウト(drop out)せよ!と唱え、ヒッピーカルチャーの金科玉条となった。「死をデザインする」にあたっても、そのアプローチは変わらない。意識の超越的体験である死によって、我々の意識は別の振動コードにtune in することになり、その後に肉体的制約からドロップアウトする、まさに「死は究極のトリップ」なのだ。「意識が神経系システムを離れて遺伝子コードと溶融するとき、私たちは私が肉体化して以来、そしてそれ以前のすべての生を受け取る。死とは生の過程全体に溶け込むことではないか……」
 これを稚拙なスピリチュアル信奉として片付けるのは容易いが、リアリーはこれを人類の進化の24段階の中に位置づけて体系化を試みている。ここら辺は、レイ・カーツワイルの『The Singularity is Near』と同じ特異点思想が見られ、テクノロジー進化の展望とともに別稿で論じてみたいが、今回はそこに見られる「スピリチュアリティ」のとらえ方に注目したい。
 スピリチュアリズム<交霊術>においても、たびたびこの「tune in」のメタファーは使われる。いわく、死者の霊と波長を合わせたときに霊が降りてくるとか、霊のお告げに「当たり」もあれば「外れ」もあるのは、交霊中にさまざまな他の霊がその波長に混線してくるからだ、とか……。ではリアリーの霊は今いったい何処にいるのだろう。
 リアリーにとって、最後のトリップは「主観的永遠にわたって継続する可能性が高い」。肉体的制約からドロップアウトする際、脳は最後まで生きているのだと言う。例えば5分、あるいは10分。あらゆる神経系を遮断した脳にとってその1分は人の一生分にも匹敵する時間となるはずで、そこには主観的永遠が広がっている、というのだ。サイケデリックなトリップを経験した人には、この「永遠の主観的時間」が分かってもらえると思う。
 これは、臨死体験の説明としても整合性がありそうだ。『霊魂だけが知っている』の最後では、ヴァージニア大学病院で行われている臨死体験実験について書かれている。心臓外科手術において心臓をほんの数秒止める際、臨死体験が報告される例は多い。そこで、手術室の天井に映像を流したモニターを付け(モニターは上向きなので、下からは見られない)、もし臨死体験者がそのモニターの画像を見ることができれば(つまり手術後=臨死体験生還後にその映像の内容を報告できれば)、それは臨死体験そのもの有力が証拠となる、という至極まじめな大学病院レベルの実験だ。著者のメアリー・ローチもこの実験に一番の期待を寄せている。だが今のところ報告例はない。もし心臓が止まって脳だけが生きている時、脳の中で「主観的永遠」を体験しているのだとすれば、それは臨死体験とはなりえても、天井に設置されたモニタを物理的に見ることとは違うのだろう。そう考えると、リアリーの霊はここにはもういない、と考えるべきなのだろうか。
 彼はまた、脳の冷凍保存や低温保存をかなりまじめに検討したようだ。「最高のトリップ」に旅立つ自分の姿をインターネットで実況配信して、そのまま肉体の冷凍保存までをもパフォーマンスアートに仕立て上げようとしたのだという。それが彼にとっての「死のデザイン」だった。合掌。

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