SINGULARITY〈特異点〉とは何か?

 ムーアーの法則に代表される情報技術や、遺伝子工学、ロボット工学、ナノテクノロジー、人口知能の指数関数的成長によって、人類はついに2045年には「SINGULARITY〈特異点〉」に達する。その先には、人類の頭脳をはるかに凌ぐ知能を持ったAIが人類に仕え、人は様々なナノボットを体内に取り込んで肉体を補強し、世界のあらゆる知識は光の速さで共有されて知能が劇的に拡張され、さらには「自己」のダウンロード/インストールを繰り返すことで、ついには「不死の生命体」となる……。
 これはアメリカの有名な発明家にして人工知能学者のレイ・カーツワイルが昨年刊行した著書『The Singularity is Near: When Humans Transcend Biology』で提示した驚愕の未来像だ。このコントラヴァーシャルな内容を少し整理していきたい。
 SINGULARITY〈特異点〉はもともと数学および物理の専門用語なのだが、広辞苑やWikiで調べてもなかなか素人には分かりにくい。「ある基準(regulation)の下、その基準が適用できない(singular)点の総称」というWikiの概論が一番ニュアンス的にはイメージしやすい。例えば数学的にはある関数で答えが定義できないような特殊な点(座標、数値)、宇宙物理学では、ブラックホールの中心で密度や重力が無限大になり、一般相対性理論が適用できない点のことをイメージすれば分かりやすいか。
 カーツワイルの提示する「SINGULARITY〈特異点〉」も、このブラックホールのイメージに近い。様々な科学技術の指数関数的成長が無限大(ピーク)に達する点というニュアンスだ。しかも宇宙物理学では、ブラックホール内の「事象の地平面」と呼ばれるある境界を越えたものは、光速以上の脱出速度でなければ戻ることができず(つまり事実上不可能)、ブラックホールに吸い込まれてしまう。そしてこちら側からは地平面の向こうを見ることは不可能だ(光が脱出できないので)。つまりSINGULARITY〈特異点〉とは、現在は見通すことのできないある指数関数的成長のピーク、と言うことができるだろう。
 しかし、こうした「SINGULARITY〈特異点〉」という語の使い方はカーツワイルが初めてではない。前世紀の最重要科学者の一人、ジョン・フォン・ノイマンは早くも50年代にこう述べている。「たえず加速度的な進歩をとげているテクノロジーは……人類の歴史において、ある非常に重大な特異点に到達しつつあるように思われる。この点を超えると、今日ある人間の営為は存続することができなくなるだろう」
 その後、1965年には統計学者のI.J.グッドが、特異点を「人類を超える知能を持った機械(ウルトラ・インテリジェント・マシーン)が誕生した段階」と定義した。この超知的機械は当然、自ら以上のウルトラ超知的機械を設計することができる(人間が超知的機械を設計したように)。だからこの後はひたすら人間の知性をはるかにかけ離れた超……(いつまでもつづく)知的機械が誕生することになるだろう。つまり人間が初めて超知的機械を作った時、それが特異点となるのだ。
 1986年には数学者/コンピュータ科学者であり、有名なSF作家でもあるヴァーナー・ヴィンジが”The Coming Technological Singularity”という論文で以下のように特異点の指数関数的特徴に言及した。「この出来事は何をもたらすだろうか? 人類より優れた知性体が進化していくとき、その進化のスピードは圧倒的に速いものになるだろう。より優れた知性体をより短い時間で作り上げていくことは疑いようがない」つまり生命が進化を遂げてついには哺乳類にまで達する時間、そして文明が進化を続けて現在の発展を遂げるまでの時間、それらを凌駕するスピードで進化が進んでいくというのだ。「人間から見れば、それこそ一瞬のうちにそれまでのルールはすべて廃棄され、あらゆる希望もコントロールも失ったまま、指数関数的成長を続けるだろう」とヴィンジやや悲観的な未来像を提示している。
 カーツワイルはこの系譜の直系子孫にあたり、まさに現在、その特異点が近づいていると述べている。それを受けてか、SINGULARITY〈特異点〉について今年「SINGULARITY Summit」もスタンフォードで開かれており、本論もその中のSINGULARITYの解説を参照している。日本ではほとんどきかれない概念だが、『The Singularity is Near』は刺激的なのでまた随時考察していきたい。
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