『草の乱』あるいは秩父事件

 同僚のNさんに薦められ、新宿ピカデリー4で『草の乱』を観る。120年前の秩父事件を題材にした神山征二郎監督の新作。4億3千万円の制作費をカンパでまかなった、自主制作映画の怪物ともいえるだろう。秩父事件については恥ずかしながらほとんど予備知識なし。ただ、ツーリングで出かけた大滝村やあのあたりの山間の美しさだけは脳裏にずっと残っていた。あののどかな田舎に何が起こったのか。
 物語は井上伝蔵という実在の人物を柱に史実にそったもの。つまりは明治の農民一揆なのだが、1884年(明治16年)という、近代国家へのまさに変革期にあって、時代のうねりというものを嫌が応にも感じさせる。たとえば(1)秩父は養蚕が盛んで、決起した農民3000人も主に養蚕農家。彼らが困民党を結成するに至るのは、松方デフレによる生糸価格の暴落が原因。これには世界的不況が原因となっており、門戸開放して世界経済に取り込まれつつある時代が、山間の田舎町に反映されている。(2)困民党とは、自由民権運動の思想的影響を色濃く受けている。初の国会が開かれるのは6年後の1890年で、こうしたカウンターパワーのはけ口が、直接的に「暴力」へと走っていった。そういう時代性と、農民一揆の伝統という古風さの融合。(3)政府打倒の一揆の「古典的形態」と対峙する明治政府の「近代性」の鮮やかな対比。結果的に、「御上へのたてつき」的な意味を含んでいた秩父農民と(本気で政府打倒を信じていたとは到底思えない)、国家へのテロとして殲滅に走る政府との、共通言語の喪失。
 時折しも、NHK大河ドラマ「新選組!」も佳境に入っていて、剣の道のもとに集まり、剣に頼って将軍を守ろうとした男たちのアナクロさが、官軍との争いの中で鮮明に描き出されている時だった。鳥羽伏見の戦いは1868年、わずか20年前足らずのことだ。それが、今回の秩父事件と妙に重なってしまった。そういえば、新選組の母体は日野市や調布市など多摩だった。関東西部という共通点には何かあるのだろうか。
 主人公の井上伝蔵は、その後逃げ延びて「死刑」を免れ、北海道にわたって晩年に初めて秩父事件を語り、そのことでその全貌が明らかになったという。同僚のNさんの尊父がそのことを自伝としてまとめ、それがこの映画の原作となっているとか。Nさんの係累に、この事件で連座した方がいるという。
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