『死体は語る』

 現在手がけている翻訳書の参考として読んだ『死体は語る』。単行本の初版は1989年ですでに60万部の大ベストセラーである。飯を食いながらでは読めないような内容この手の本がなぜこれだけ売れたのか。「きらきらひかる」をはじめ、その後の法医学ブームを巻き起こした本書は、今この時点で読むと、改めてパラダイムが変わった瞬間を事後的に追体験できるかのようだ。それだけ、現在のテレビ、あるいはミステリーをはじめとする「死体もの」において、「物言わぬ死体が語りかける真実」というプロットが定着化しているということだろう。
 だが、著者の上野正彦氏の姿勢は極めて明瞭不変で、しばしば「死体の人権を守る」という言葉に集約される。死体の身体を切り刻み、死後解剖することが、その死体の生前の人権を守ることにつながる、つまりはすべてそういう話しになっているのだが、それが非常に面白く(ひとつひとつがサスペンスであり、探偵もの小話である)、死人をして人間味溢れる話へと落とし込まれているのだ。しかも監察医制度の施行は東京をはじめとする大都市のみに限られているものの、例えば東京都監察医務院によると、一日に30件は検案が行われ、うち7体が解剖に回されているというから、決してどこかの特別な世界の出来事、ではないのだろう。東京都23区の全死亡者数にしめる検案数は18%に上るという。
 翻って現在進行中の企画を考えるに、死後に活用される献体のさまざまな実態(ただしアメリカ)には、そういった「生者の側」に訴えかける何かがあるだろうか。それがタイトルの鍵となるように思う。そういう意味で、示唆的な一冊だった。
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